ゲル 

    
 
 


 「モンゴルに行くなら、ゲルに泊まるんでしょう?」
 と、ほぼ全員に言われました。
 しかしこのゲル泊は、
 決して優雅なもんじゃありませんぜ。
 セレブにあるまじき、ワイルドなお宿です。
 
 ウランバートル市内から、
 ガタガタ道路を50km走って、
 さらに、大草原の道なき道を20km走ったとこらにある、
 テレルジ国立公園のツーリストキャンプに泊まりました。
 日本で言えば、八ヶ岳、てかんじですか。
 
 10月は、すでにシーズンオフなので、
 キャンプ場には、私たちしか客はいませんでした。
 ゲルには窓がないので、中は暗く、
 フエルトの壁と屋根なので、寒いです。
 
 薪をくべてもらうと、2時間は、
 常夏のような暑さになります。
 しかし、3時間たつと、火の勢いが衰えて来ます。
 すると、だんだん寒くなり、
 やがて、外と同じ寒さになります。
 
 4時間経つと、キャンプの管理人が、
 新しい薪をくべにきます。
 夜中でも、ドアを「どんどんどんどん!」
 と、容赦なく叩いて、起こします。
 そうしないと、凍え死んでしまいますからね。
 
 モンゴルでは、
 1日の寒暖差が30度あることがあります。
 モンゴル人にとっては、
 部屋の中の寒暖差など、問題ないのでしょう。
 
 でもうちらは、エアコンの設定温度を
 「28度にしろ」だの「やっぱ27度のままで」
 とか、指定して生活しているので、
 部屋の温度差に、適応できません。
 
 始めは暑すぎて眠れないし、
 睡眠薬を飲んで、やっと眠っても、
 寒くて目が覚めるし、
 1度脱いだ服を集めて暖を取って、
 ウトウトしても、
 結局、起こされる、というオチです。
 
 冷えて尿意をもよおしても、
 ゲルから管理棟のトイレまでは遠すぎて、
 とても行けません。
 テントのそばで、野ションです。
 
 冷たい風が、ぴゅ〜〜とお尻に吹きつけ、
 ちょっと快感でした。
 手は雪で洗い、紙は、火に入れます。
 そんなことをしているので、
 夜は、熟睡出来ません。
 
 また、シャワーは、はるばる管理棟まで行って、
 浴びることができましたが、
 最後まで、ぬるま湯しか出ませんでした。
 
 2017年でも、ゲルは、現役の住居です。
 郊外のほとんどの家は、このゲルです。
 都心のビルの谷間にも、ゲルが点在しています。
 
 既婚ガイドと既婚運転手は、
 同じゲルで寝泊まりしていました。
 プライバシーよりも、暖かい部屋を選ぶわけです。
 「男女でも、これが普通よ。
  モンゴルの女性は強いから、襲われることはないわ。」
 
 そういえば、日本家屋も、鍵がなく、
 ふすま一枚で、男女が寝泊まりします。
 民宿で、隣の部屋の会話が聞こえても、
 危険だ、とは思いません。
 
 アメリカでは、鍵をかけても、
 銃がなければ安心出来ないわけですから、
 絶対の安全というのは、あり得ないのかもしれません。
 
 根拠のない安全神話があるのは、
 日本もモンゴルも同じかもしれません。
 単一民族のなせる信頼感、なのでしょうね。

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